鉄フライパンのシーズニング、サビないように最初に黒錆を付ける方法。黒錆って実は黒くないよ。
コンボクッカーやスキレット、鉄のフライパンのシーズニングをしてきましたが、これまでの経験と聞きかじった知識をくっつけて、自分なりのシーズニング論みたいなのをまとめてみました。まずは黒錆について考察してみます。
鉄鍋の使い始め、シーズニングって何?実は2段階あると思うんだ
コーティング処理がされていない鉄製の調理器具を使い始めるとき、最初に「シーズニング」とか「慣らし」というお決まりの事始めがあります。なんとなく「シーズニング」という言葉の中身は、2つの目的を一緒に話している、あるいは区別せずに話していることが多いように思います。その2つとは、以下のことです。
ステップ1・酸化膜(黒錆)
まずは一発目、フライパンをしっかり洗って油分を落とし、炎でチンチンにするという工程があります。これは、熱で黒錆を付ける工程です。黒錆は四酸化三鉄といって赤錆よりちょっと鉄と酸素が多いのですが、約600℃ぐらいまで温度が上がった状態で酸素と触れ合うとできるものです。
黒錆といいながら実際には黒というよりは少し青みがかかった灰色で、これが鉄の表面にできあがると酸素に対してとても安定した状態となり、浸食性のある赤錆が付きにくくなります。
この時点では、まだ焦げ付きにくいフライパンとは違うもので、あくまで赤錆が付きにくくなった状態です。
ステップ2・炭化皮膜の生成
使い込まれて黒くなったフライパン(黒皮鉄じゃないのに)やブラックポッドと呼ばれるダッチオーブン、スキレットなどは炭化皮膜でおおわれています。オイルを薄く塗って焼くことによりオイルの一部の成分が揮発して煙を出し、フライパンの表面に残った炭化物が多孔性の炭化皮膜が構成して色が黒くなっていきます。
多孔性(小さな穴が開いた状態)の膜でコーティングされることにより、オイルの保持力が高くなっていきます。そのため、食材を焼くときに十分にフライパンとの間にオイルが保持され、焦げ付きにくくなると考えています。
ただしこの炭化皮膜、焼きすぎるとボロボロになって単なる炭になってしまいますので焼きすぎないことが肝心です。目安としては、オイルで濡れているように見える表面が乾いたな、というあたりでやめて冷ますべきでしょう。
使用開始・炭化皮膜の育成
「フライパンから煙がでるぐらいまで熱してから油返しをして…」という話がよく言われていますが、最初にフライパンを熱することで古いオイルを飛ばしてしまうのと、炭化皮膜をさらに厚くする(というよりは、スキマだらけの多孔性膜をより細かくするのかも)という2つの役割がありそうです。
これにより、使えば使うほどフライパンやスキレットは黒さを増し、より焦げ付きにくい調理器具に育っていきます。
このことから、黒錆がしっかり付いて炭素皮膜のコーティングもしっかり育っていれば、洗剤で洗ったところで皮膜が取れることはないですし、仮に多孔性の表面で保持しているオイルが無くなっても、次にフライパンを温めて油返しをした時点でオイルが炭素皮膜の穴に流れ込んでいくはずです。
中華料理のプロの方などが、中華鍋を洗剤で洗ってそのまま自然乾燥としていても錆びることがないのは、こういった理由によるものと考えられます。恐らくこんな状態になっているのではないかと。
プレスで作られたフライパンなどで黒いものがありますが、 あれは黒皮鉄という鉄で作ったものです。黒皮は黒錆の1つで、高熱に熱した鉄を板材に延ばす工程で酸化したものです。表目にうっすらできるものとはちょっと違うようで、黒皮と鉄はしっかりと密着しているものからちょっと浮いているものまでいろいろあります。フライパンに使われているものはしっかり密着しているものを選んでいるのだと思います。
鉄のフライパンに黒錆を付けるのは簡単、やってみよう!
シーズニングの最初に作る黒錆は、黒くありません。灰色というかちょっと青っぽいといますか。色が変化していく様は幻想的で美しいです。フライパンを思いっきり磨いて鉄の地肌が出たら、オイルとかは塗らずに(むしろ手の脂も含めてまったく付着していない状態で)炎であぶります。最初は弱火でしっかり水分を飛ばし、その後、中火で熱します。
この炒め鍋は黒皮鉄の炒め鍋ですが、錆びて引き出しの奥にしまってありました。そのため、一度キンキンに焼いて焦げ付きを飛ばし、内側をサンドペーパー(240番を使用)などで磨いて地金を出したものです。実は2回目…ちょっと料理に使わない期間があったのですが、前回、適当に地金をしっかり出さずに処理しちゃったせいか、別の鍋の下敷きになったときに錆びてしまいました。
今回はガッツリ下処理をしたので、これから改めて黒錆をつけるところから育て中です。オイルは塗っていない状態です。
わずかにフライパン底部の右上のほう、色が変わってきたのがわかりますか?
だんだん色が変わってきましよ!
お、スチールブルー発現!
とてもきれいな色です。これがガスコンロで作れる黒錆です。あ、スチールブルーはSiSOが勝手に命名しました。
ジワジワっとスチールブルーが広がっていきます。
炎の当たる位置を変えながらどんどん黒錆を広げていきます。
ちょっと炒め鍋を傾けて、底面のフチも焼いていきます。
側面も忘れずに黒錆を付けていきます。
取っ手部分だけはひっくり返して炎に当てて仕上げました。これで完成です。どうでしょう?黒いフライパンとはちょっとちがった色に仕上がっていると思います。
フライパンの空焼きで黒錆を付けていたら赤錆発生?
フライパンが冷めてきたら洗剤も使ってしっかり洗ってください。スポンジの固い面がちょうどいいぐらいかな?なぜかというと…百聞は一見に如かずとういことで、洗う前のフライパンをちょっとキッチンペーパーでこすってみます。
あら?何やら赤いものが…。
こ、これは恐怖の赤錆ですか???
ご心配なく!(あ、経験上…)黒錆ができると同時に、さらにその表面に赤錆ができます。黒錆を付けた後はしっかりとお湯、洗剤を使って洗ってください。
スキレットの黒錆付けは難しいかな
ちなみにスキレットの場合、全体的にしっかり黒錆を付けるのは家庭用ガスコンロでは至難の業だと考えています。黒錆を付けるためには600℃ぐらいまで温度を上げる必要がありますが、そもそも厚みがとてもあるものなので温度を上げるのに時間がかかりますし、持っているのも大変です。
また、熱の保持力が高いため、ガスコンロへの悪影響も心配です。ガスバーナーで直接表面をあぶってやればうまくできるかもしれません。
左は購入した状態の19cmスキレットで、右がなんとか黒錆付いたかな?ぐらいの15cmスキレットです。まだ炭化皮膜(オイルを薄く塗って焼いて付ける皮膜)は付けてない、恐らく黒錆がついているだろうの状態です。
この後、19cmスキレットのほうもシーズニングをしましたがなかなか難しいです。15cmのスキレットは小さいのでなんとか黒錆かな?の領域まで行けますが、19cmの方は多少は付いたかも、ぐらいで断念して炭化皮膜の育成に精を出すことにしました。
炭化皮膜の育て方
しばらくはフライパンへの密着度の低い食材、例えば野菜炒めなどの調理をして炭化皮膜を育てるのがよいです。炭化皮膜が増えてくると穴の密度が高くなり、よりオイルの保持力が高くなり、食材が焦げ付きにくくなってきます。
特に意識することなく、使用後に塗っておいたオイルを飛ばすためにフライパンを熱し、煙が出てきたら油返しをします。その後、普通に調理をするだけです。最初のフライパンを熱するところで、炭化皮膜が成長します。
実はプレスで作ったフライパンというのがまだよくわかっていなくて研究中です。本記事でも写真を掲載している炒め鍋は、もともと黒皮鉄の炒め鍋で、妻が買ったもののうまく使えず、引き出しの奥で錆びていた炒め鍋です。以前、軽く磨いて黒錆付けて…とやったのですが、中途半端に軽くやっただけだったので、別の鍋と重ねていたらまた錆びちゃいました。そんなわけで今回、がっつりとサンドペーパーで内側を磨いて再育成中なのです。
対して我が家の鋳鉄製コンボクッカー、とてもいい感じで成長しており、小さじ半分程度のオイルがあれば目玉焼きを焼いてもこびりつかずに、ペロンとはがすことができます。最近、ニトリのスキレットを購入したのですが、こちらもすぐに手ごたえを感じるぐらいに順調に成長中です。
左がシーズニング前の19cmスキレット、右がシーズニング後の15cmスキレットです。販売されている状態よりもちょっと黒くなっていることがわかるかと思います。
恐らく、鋳鉄製のほうがもともと表面がほどよくボコボコしているので、オイルの保持力が高いと思われます。
炒め鍋のほうもじっくり焦らずに育てて、いつか洗剤で洗って自然乾燥しても錆びない炒め鍋になってくれたらな、と思います。
今日の一言二言三言
フライパン 錆びたらしっかり 磨いてね
黒錆付けて 炭化皮膜も
黒錆はアルカリ溶液を使ってつけることも可能です。食材系のもので化学変化を起こさせるならレモンティーとか紅茶と酢などです。あれってどうなのかな?
すばらしい記事でした。
昨今の動画サイトやSNSの利用者増加に伴い、間違った情報が拡散されやすくなっており、
今回の鉄のフライパンに関する理論においても、非常に曖昧な情報が多く飛び交っています。
多くの情報では、購入時の防腐剤の焼切りと酸化皮膜の形成の情報しか紹介しておらず、また、酸化皮膜の効果と油膜の効果を同一化して語っていたり、もしくは逆に理解していたり、そもそもそれらがどういう振る舞いをしているのか理解していない人がほとんどでした。
そういう誤解が、シーズニング後は洗剤を使って洗浄してはいけないと言う更なる誤解を呼び出してしまっているのだと思います。
実際は洗剤を使ってでも、多孔質の黒錆の間に挟まった油や食材をキレイに洗い流す事が、次の焦げ付き防止において非常に重要である事を多くの情報拡散者は理解すべきです。
油膜の下の層が黒錆皮膜の場合と、炭化皮膜の場合で、調理食材の吸着に差が出るかどうかは実際に研究と検証をしてみないとわかりませんが、どちらも物質の状態が多孔質であれば、その上に油膜を張り温度を上げる事で、焦げ付き防止膜として機能するのではないかと考えられます。
簡単に言うと、物質的に固定的な皮膜(黒錆・炭化皮膜)にどれだけ食材を触れさせないかが重要で、そのための中間に油膜が必要という事ですね。
それなら、キレイな平面の鉄板の上に油を引き調理すればいいだけと思われますが、それだと食材を投入した際に、液体である油を押しのけて、直接鉄板と食材が接触してしまうので、結果としてくっ付いてしまうでしょう。
また油を引かず、固定皮膜だけで調理をすれば、その多孔性ゆえに、調理食材が細孔に入り込み、さらに加熱により食材が凝固するため、細孔に食材が引っかかって剥がれなくなるというのがイメージとしてはわかりやすいところでしょうか。
流動的な油膜が食材より先に固定皮膜の多孔を埋めている場合、食材と油膜が先に吸着し、また食材が油を押しのけて固定皮膜に接触しても、固定皮膜は凸凹しているので接触面積が殆どなく、また皮膜の間の細孔にはすでに油が溜まっているので、皮膜の隙間に食材が入り込むのを防ぎ、結果としてくっ付きを防止できる、というところでしょうか。